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SPRING WALTZ   -ドラマの後の物語-

                                     (8)

  ソウルに越して二度目の冬を迎える頃、スホはフィリップに言われた「二年後」にリサイタルを開ける、という手ごたえを感じられるようになっていた。以前演奏活動をしていた時と同じだけのレパートリーが持てたわけではなかったが、これまでに練習して自分のものにできた曲の中から十分にリサイタルプログラムを組めるし、もうステージに立っても大丈夫だと感じたのだ。
 ところがようやくここまでこぎつけたというのに、この頃からスホとフィリップは復帰リサイタルを巡って口論を繰り返すようになった。復帰リサイタルはウィーンを皮切りに、かつて演奏会を開いたヨーロッパの各都市を回るべきだと主張するフィリップに対して、スホはソウルで再スタートを切りたいと譲らなかったのだ。平行線を辿る二人の議論を見かねてイナも加わり、三人で電話やメールで何度も協議を重ねたが意見の一致は見られそうになく、スホの相変わらずの頑固さにフィリップもとうとう降参した。スホのリサイタルなのだから本人の意思が最優先で、フィリップといえども無理強いすることはできなかったのだ。しかしそれでもフィリップはスホをウィーンへと呼んだ。
「とにかく一度こっちに来ないか。どこでやるにしても君の十年ぶりの再出発なんだから、ちゃんと顔を合わせて打ち合わせをしたいんだ。イナも君の復帰リサイタルには尽力を惜しまないと言ってくれているから、三人できちんと話を詰めておこうよ。まあ出発式だ。あいにくイナも僕も今はいろいろ用事があってソウルまでは行かれないから、君が出てこい。昔、演奏家として活躍していた街を訪ねるのもきっと刺激になるはずだ。それにリサイタルまでに会って話しておきたいこともあるからね。」
 そんな訳で、スホは十年ぶりにウィーンを訪れた。十二月のとても寒い日でウィーンの街は前日から降り続いた雪で一面真っ白に覆われていたが、そこここに見られるクリスマスの飾りが街に華やぎを添えていた。
「相変わらずクリスマス市が立ってる。意外に変わってないね。十年前のままじゃないか?」
 空港まで迎えに来てくれたフィリップの車に乗ってウィーンの街を走りながら、スホが言った。
「懐かしいだろう? この街は変わらないよ。あちこち行ってみたいところもあるだろうけど、今日はこのままイナのオフィスに急ごう。さっきイナから電話があって、今日の午後に会うはずだった人が明日に変えてくれと言ってきたので急に時間が空いたんだって。イナは今いくつも仕事を抱えていていつまた予定が変わるかわからないから、打ち合わせは今日中に済ませてしまおう。」
 グリーンミュージック・ウィーン支社ではすっかりドイツ語が堪能になったイナがてきぱきと仕事をこなしていたが、二人を見るとにっこり笑って立ち上がり、書類と揃えると小さな会議室へと二人を導き入れた。
「着いたばかりなのにごめんなさいね。急に予定が変わっちゃって…。チェハ、久しぶりね。十年ぶりのウィーンはどう?」
「ここは変わらないね。何だか安心したよ。」
「そうね、確かにソウルはどんどん変わってきているわね。帰るたびに驚かされるもの。最近では私もこっちにいる方が落ち着くようになっちゃった。さあ、先に大事な話を済ませちゃいましょう。チェハの復帰リサイタルの開催地だけど、ソウルで決まりでいいのね? フィリップもOKね?」
「あれだけ言っても本人がうんと言わないんだから仕方がない。でもピアニスト クリス・ユンのホームグラウンドはここヨーロッパだったんだ。ここで始めるのが当然だと僕は今でも思っている。
チェハ、もう一度だけ言うからよく聞けよ。電話でも言ったとおり、ヨーロッパ各地のホールでは僕が行くと今でも時々君の話が出るんだ。『クリス・ユンは惜しいことをした。その後、彼みたいなピアニストには未だお目にかかれない』ってね。君はずっと韓国で暮らしてきたからピンとこないかもしれないが、本当なんだ。最近になって君の復帰のことを何人かに話したら、みんなすごく喜んでくれている。君がリサイタルを開くと言えばかなりのホールが手を挙げるはずだし、興行的にも黒字は間違いない。でもソウルで同じようにいくかどうか…。以前は君も韓国内で期待されてたけど、結局はアルバムを一つ出して、リサイタルを一度開いただけだろう。韓国ではその後若手のピアニストが何人も出てきて注目を集めてるじゃないか。ファンの期待度の違いを考えろ。償いだってしなくちゃいけない。君が指を痛めてピアノが弾けなくなったために、あの後予定していたリサイタルを三つもキャンセルしたんだ。チケットを買ってくれていたお客さんをがっかりさせたんだから、そっちに足を運ぶ方が先だろう? それに久しぶりのリサイタルなんだから、慣れ親しんだホールの方が君だって弾きやすいだろう? 万が一ソウルで失敗したら、その後でヨーロッパでやろうとしても何がしかのダメージは免れないぞ。」
「十数年前の韓国でのあなたの人気も相当なものだったから、私はフィリップほどには心配してないのよ。人気のある若手ピアニストは確かにいるけれど、今でもあなたのファンはいるはずだから。ただ宣伝には相当力を入れる必要があると思うけれどね。
 私はチェハがまた演奏活動に戻ってくれることがうれしいの。だからどこでやるにしても、私にできることは精いっぱいやるつもりよ。」
「二人ともありがとう。フィリップの言うことももっともだと思う。でも最初のリサイタルだけはソウルでやらせてほしいんだ。」
「どうしてもソウルで家族に聞かせたいのか?」
「ああ。もちろんイナがジョーンズ博士を紹介してくれたこと、フィリップがずっと僕のことを気にかけていてくれたことには本当に感謝している。でも僕の家族や両親、ウニョンのお母さんたちがいてくれなかったら僕は到底ここまで来られなかった。それに子どもたちにこれからの僕の仕事をちゃんと見せておきたいんだ。本格的に演奏活動を再開したら留守にすることも増えるから、子どもたちが不安がるといけないだろう?」
「まあ、それもわからないじゃないけど…。」
「それにこの十年ずっと韓国で暮らしてきたから、今自分がいるところで始めるのが自然だとも思うんだ。僕も若手の演奏は聴いているけれど、彼らに負けない演奏をする自信はある。昔の実績に頼らず、今の自分の演奏で勝負したいんだ。」
「ここまで言われたら仕方ないわね。チェハの意思を尊重しましょう。いいわね、フィリップ?」
 フィリップは不承不承頷いた。
「じゃあ、具体的な話に入るわよ。チェハは何月頃を考えているの?」
「そうだな、四月か五月。三月でも大丈夫だけど。」
「どこか希望のホールはある?」
「いや、別に。親子鑑賞室があるところならどこでも。それがないと下の子を連れて行けないからね。」
「今はソウルならたいていのホールに親子鑑賞室はあるはずよ。早速ソウルの本社に連絡して空き状況を調べてもらうわ。じゃあ時期は一応四月ということにして、その前後も調べてもらおうか。」
「四月なら十五日の土曜日ってどうかな?」
 カレンダーを見ながらスホが言った。
「四月十五日って、何か特別な日なの?」
「いや、今ふっと思いついたんだ。」
「そうなの? わかりました。日時と場所が決まったらすぐにポスターやチケットの手配、マスコミへの通知を始めるから、チェハ、忙しくなるわよ。写真撮影やインタビューの日時の連絡先は自宅でいいのね?」
「ああ、電話でもファックスでもメールでも OK。」
「それからステージネームは『クリス・ユン』を使うのね? 韓国では『ユン・ジェハ』の方が知られていると思うけど、あなたはもう『チェハ』の名前は使いたくないのよね?」
「使いたくない、というより、もう使うべきじゃないような気がするんだ。スホに戻った時に『チェハ』という名前はあの子に返したから。もちろん君たちや昔の知り合いが僕のことを『チェハ』って呼ぶのはかまわない。でも僕自身がまた仕事に使っていいのかな、って思うんだ。『クリス・ユン』を名乗ることは両親も承知して、喜んでくれてるよ。」                                                                        今では幼かった頃のチェハの思い出話をしたり、二人で連れ立ってチェハの墓参りに行くようになったミョンフンとチスクを思いながら、スホは言った。
「わかりました。ただリサイタル会場と日時が決まればマスコミにも通知するけど、その時には念のために『クリス・ユンはかつてのユン・ジェハだ』って伝えるわよ。いいわね、チェハ?」
「ああ、もちろんだ。」
「ところで、プログラムはいつ頃決まるかしら?」
「だいたいは決めたけど、後半がまだ詰め切れてないんだ。弾きたい曲はたくさんあるけど全部ってわけにもいかないからね。決まり次第、連絡するよ。」
「よろしくね。楽しみにしているわ。じゃあフィリップ、今日のところはこれでいいかしら?」
 フィリップが頷くと、イナは手早く書類をまとめながら言った。 
「チェハ、やっぱり来てもらって良かったわ。あなた、もうすっかり演奏家の顔になってるわよ。いい演奏会にしましょうね。私も裏方としてベストを尽くします。久しぶりにゆっくり話もしたいけど、私は次の仕事があるから失礼するわ。」
「そう。じゃあ僕はまだ時間があるからチェハをホテルまで送るよ。」
「ありがとう。じゃあイナ、後のことはよろしく。」
「ええ。ソウルのホールの状況がわかったら、すぐに連絡するわね。」
 イナはスホとフィリップを送り出すと、忙しく働く社員たちの目を避けるように、ちょうど空いていた応接室に飛び込んだ。二人の前では平静を装っていたが、復帰リサイタルの打ち合わせを始めて間もない頃から、イナは様々な思いが心の奥からこみ上げてくるのを感じていた。十年前にスホが韓国に戻ってからもイナは仕事の傍ら彼の手を治す方法を探し続けずにはいられなかった。そしてようやくそれを探し当て、彼が治療を始めてからは演奏家としての彼の復帰をひたすらに祈り続けてきたのだった。この十年間にウィーンでの事業は少しずつ大きくなっていたが、彼女の心の中には時間の流れが止まってしまったかのように思われる部分があった。でも再びステージに立つ準備をして、十年ぶりにこのウィーンに戻ってきた彼の姿を見て、イナは感無量だった。
 彼が再び演奏活動を始めたとしても自分のしたことが消えるわけではなかったし、彼の演奏家としてのブランクは消しようもなかった。でも彼の復帰への道筋を用意することでほんの少しでも償えたえら…。そう思いながらイナは窓辺に立ち、降りしきる雪をしばらくの間、眺めていた。

 
 フィリップは再びスホを車に乗せると、
「しかし君の頑固も相変わらずだ。」
と笑い、スホは
「すまないね。いろいろ心配してくれてありがたいと思っているよ。」
と、素直に頭を下げた。
「はるばるウィーンまで来ても君の心は動かなかったかい?」
「いろんなことを思い出したよ。前にここにいた頃は、韓国のことは心の奥に押し込めて、君にすら自分の本当の名前も言えずに親父を恨み自分を責め続けていた。ピアノをやめて、スホに戻って自分の家族を持って韓国で暮らしていた僕が、また君と組んでピアノが弾けるようになる。またここでリサイタルを開くこともあるだろう。そのことが本当にありがたいと思えるよ。ソウルでのリサイタルを成功させたら、あとはどこへでも行く。また君と仕事ができるんだ。困らせるようなことはしないよ。」
「GOOD。だったらウィーンに戻って来い。」
「ウィーンに? 本拠を移すってことかい?」
「そうさ。さっきも言ったように君を覚えている人は本当にたくさんいるんだ。それに僕もこっちの方が仕事はしやすい。」
「う~ん、僕一人じゃないからね。さっき『どこへでも行く』と言ったのはこっちでリサイタルを開くことがあれば、という意味なんだ。」
「そう。でも前向きに考えて。君はヨーロッパで演奏した方がいいと思うんだ。」
「わかった。でも、今はとにかくソウルでのリサイタルに集中したい。後のことはそれからだ。こっちで暮らすとなると家族にとっても大変なことだから、よく考えないと。」
「OK 。ところでなぜ四月十五日なんだ?」
「ヘジンの誕生日なんだ。ソウルに出るにあたって一番辛い思いをさせたんだけど、今ではヘジンは僕のこと応援してくれてるんだ。だからその日にできたらいいプレゼントになるんじゃないかと、さっき話しててふと思ってね。もちろんホールが空いてなければ仕方ないけど。」
「そうだったのか。子どもの頃の記憶は後々まで残るから、辛い思い出は少しでもやわらげてやれたらそれに越したことはないよね。君もすっかりいい父親になったな。」                                                                         フィリップのその言葉にスホは笑いながら首を振った。
「いい父親かどうかはわからない。でもフィリップ、子どもっていいもんだよ。」
「そう?」
「ああ。存在そのものが励みになるんだ。他の誰に励まされるよりも頑張ろうと思える。だから子どもたちに今の僕の最高の演奏を聞かせてやりたい。」
「そう。」
 フィリップは頷くと、しばらく無言で車を走らせた。
「写真で見るとヘジンとヘヨンは君によく似てて、末っ子のヘヒャンはウニョンに似てるね。みんなそれぞれ可愛らしい。」
「そうだな、」
 スホは穏やかな微笑みを浮かべて言った。
「確かにヘヒャンはウニョンに似てるんだけど、ウニョンはヘヒャンのこと、亡くなったお母さんに似てるって言うんだ。笑った顔の目元がね。ヘヒャンを見てると、お母さんに会えたような気がするんだって。ヘヒャンは三人の中で一番の腕白坊主でね。好奇心の塊で何にでも触りたがるからちょっとでも目を離すとすぐに物を壊すわ、散らかすわ、上の二人がピアノを弾きだすと飛んできて一緒に弾こうとして邪魔するわで、その度に外へ連れ出さなきゃいけなくてウニョンも大変なんだけど、ヘヒャンに振り回されながらも癒されてるみたいだ。この間も『お母さんは早くに亡くなってしまったけれど、お母さんの命はちゃんと子どもたちに受け継がれているのね』って、ヘヒャンの寝顔を見ながらしみじみと話してたよ。」
ウニョンはこの年の春、亡くなった母ヘスンと同じ年になり、それまで以上に母親のことを思い出すらしくよく母のことを話題にしていた。そしてその度に母が自分にしたかっただろうことを、自分はこれからも元気に生きて子どもたちにしてやりたいと言い、スホも二人で子どもたちを大事に育てようと話すのだった。
「そう。いい話だね。命が受け継がれてウニョンはお母さんに会えたんだ。じゃあ次は僕がママに会う番だ。チェハ、やっと見つけたんだよ、僕と一緒に生きていってくれる人。」
「えっ?」
 思いがけないフィリップの言葉にスホが驚いて顔を上げると、
「このことも話したくて来てもらったんだけど、どう切り出そうかとさっきからずっと迷ってたんだ。ああ、やっと話せてすっきりした。」
とフィリップは笑った。
「おい、本当か?」
「本当、本当。十年かかったよ。僕が人生最大の失恋をしてから十年。僕にはもうパートナーが見つからないのかと思ったこともあったけど、やっと見つけた。」
「そうか…。それはおめでとう。で、どんな人なの?」
「音楽雑誌の記者で、僕が担当しているピアニストに取材に来たんだ。」
「そう。で、また猛烈にアプローチしたんだな。」
「いや、そうじゃないんだ。もちろん第一印象は悪くなかったよ。話し方に品があって、穏やかで優しい感じだったんだ。でも口数が少なくておとなしいから、正直それほど気になる人じゃなかったんだ。それがある日、仕事の後で雑談してたら、何と彼女、君のファンだったことがわかってさ。」
「本当かい?」
「ああ。それで僕が君と同級生で親友だったこと、以前君のマネージャーだったことを話したら、彼女の方が君の話を聞きたがったんだ。それで彼女に頼まれて仕事以外でも会うようになって…。」
「お前、彼女にサービスするつもりでいろいろと話して聞かせたのか?」
「馬鹿言え。相手が誰であっても君のことをそんなふうに他人に話したりするもんか。それに彼女は興味本位であれこれ尋ねたりしない。取材相手にちゃんと敬意を払うし、聞きたいことをきちんと整理して丁寧に質問してくる立派な記者だよ。真面目に君のことを聞きたがってるのがわかったから、僕も彼女になら話してもいいと思ったんだ。記事にはしない、という約束でね。
 君との思い出を話すのに三回会ったんだけど、彼女と話していると不思議と気持ちが安らぐ、というか心があったかくなるのを感じたんだ。それで終わりにするのが何だか勿体ない気がして、それから二人で食事をしたり一緒にコンサートに行ったりするようになった。会うたびに彼女との時間が僕にとって大切なものに感じられるようになってきた。彼女は聞き上手だし、物の考え方や感じ方がとてもよく似ているから一緒にいると安心できるんだ。
 最初のうちは学校時代のことやマネージャーとしての思い出を話してたんだけど、いつの間にか僕の子どもの頃のこと、両親のこと、韓国のおじいちゃんやおばあちゃんのことも話してた。彼女、しっかり聞いてくれたよ。
 彼女は十一歳からお父さんの仕事でソウルに六年間住んでたんだ。だから韓国語も日常会話は十分こなせるし、韓国人の友だちもいて一部の韓国人が僕みたいなハーフに厳しいこともよく知ってる。だからいっぱい説明しなくても僕の気持ちをわかってもらえるんだ。僕にとってこれ以上の人はないよ。」
「そう。そうだったのか。本当におめでとう。で、式はいつ?」
「六月なんだ。君も来てくれるかい、ウィーンまで?」
「ああ、喜んで。」
「良かった。彼女も喜ぶよ。君の復帰リサイタルには取材も兼ねて行くって言ってたから、その時には紹介できる。急な出張が入って、今はウィーンにいないんだ。」
「それは残念だなあ。韓国に来られるんなら安東(アンドン)のおばあさんにも紹介するんだろう?」
「安東にはもちろん連れて行くよ。おばあちゃんにもママにも紹介したいから。君のリサイタルが終わったら二人で旅行しようと思ってる。彼女、韓国には僕より詳しいからね。韓国が大好きで韓国は自分の第二の故郷だって言ってるよ。僕には本当に申し分ない人だって、父さんも喜んでくれたよ。」
「そうかい、それは本当に良かった。ウニョンも喜ぶよ。最近、安東のおじいさんはどうなの? 相変わらずかい?」
「ああ、相変わらず。でもおばあちゃんの話ではだいぶ軟化してきてるって。僕がおばあちゃんに出した手紙をおじいちゃんが受け取ってもちゃんとおばあちゃんに渡ってるし、おばあちゃんが僕に会いに来るのも黙認してる。前に僕が訪ねて行った時に剣もほろろに追い返したから、今さら家に連れて来いって言えないみたいだよ。頑固な人だからね。でも僕がおばあちゃんに会えるようになったこと、きっとママは喜んでると思うんだ。」
「そう。おじいさんの方はもう少し時間がかかるかもしれないね。何にしても四月に君のフィアンセに会えるのを楽しみにしてる。名前は何ていうんだい?」
「マリア。マリア・シューラー。」
「どんな人? 写真、見せろよ。」
「写真は見せないよ。写真じゃ彼女の魅力は伝わらないからね。会えばどんなに素敵な人かわかるから。会える日を楽しみにしておいて。」
 そう言うとフィリップはウィンクして見せた。
 思いがけないフィリップの告白だったが、フィリップののろけ話を聞きながらスホは心が温かくなるのを感じていた。フィリップが表面上明るく振る舞いながらも、心の中に深い孤独を抱えていることをスホは誰よりもよく知っていた。だからようやく訪れたフィリップの幸せが自分のことのようにうれしかった。間もなくフィリップも自分に安らぎを与えてくれる人と暮らせる幸せ、我が子の成長を見守る喜びを味わうようになるだろう。
 これからはフィリップと力を合わせて今まで以上に頑張っていかねば、とスホは思った。演奏家としてより良い演奏をするために、そしてそれぞれの大切な家族のために。


                                                                   (to be continued)
    "SPRING WALTZ"(9) は4月6日頃に発表予定です。
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コメント

「第8話」について

第8話、いささか長いのですが、例によって2つに分けるには1つずつが短すぎるので結局1話にまとめてしまいました。いろんな話が出てくるため、まとまりに欠ける感は否めません。少しでもすっきりわかりやすくしたいと思い、だいぶあちこち手を入れましたが、私の力ではこれが精いっぱいでした。読みづらいかと思いますがお許しください。m(_ _)m

(結局のところ、ドラマ終了から7年経過した時点で「復活編」を始めてしまったため、その間の登場人物の動静を説明しようと思うとこうなっちゃうんです。)


マリアさん、最初はフィリップのガールフレンドのつもりだったのですが、あれこれ考えているうちにいつの間にやら婚約者に昇格していました。マリアさんの人となりについては、一昨年の夏にまぷママさんとあれこれ話し合ったことを元に考えてみましたが、
       ↓
http://myhome.cururu.jp/springstory/blog/article/31002274073
(http://springstory2.blog12.fc2.com/blog-entry-116.html)


実際に書いてみると、「ウニョン=母に似てる」は入りませんでした。フィリップも既に30代後半になっていますし、ルックスやフィーリングに惹かれて追っかけるよりも、いろいろな話をする中で相手の人柄に惹かれていく、という方が自然かも?と思えましたので。


また「次は僕がママに会う番だ」と「(フィリップが)我が子の成長を見守る喜びを味わうようになるだろう」というのは、それぞれフィリップとチェハの願望で、実際に予定があるわけではありませんのでお間違いのなきようお願いいたします。m(_ _)m


それから文中で、段落の変わり目に一文字分下げることが、このFC2のブログでは時々うまくできません。一行あけるのも投稿画面で二行分あけないとうまく表示されなかったりで、見つけ次第直していますがどうしても直せないこともあり、お見苦しいかと思いますが悪しからずご了承ください。
  • 2010-03-21 21:34
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
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ロングコートの二人

メガネごしのイナの瞳・・・
きゃ~~~、ワープしました。mkmさ~~ん!
そして、幸せなフィリップにパ~~ンチ!なんで?(爆)
ウニョンも連れて行きたかったですね~~。
思い出のハルシュタットのホテルのべランダで
ウニョンの肩を抱きながら、湖畔で雪玉を積んで遊ぶ子供たちを優しく見つめるチェハ……
涙が出るほど幸せな風景ですぅ~~(T0T)
勝手に妄想のアタクシにパ~ンチですわね・・・おほほ
  • 2010-03-26 17:24
  • URL
  • qoo #sSHoJftA
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Re: 思い出のハルシュタット!

qooちゃ~ん、

この後、チェハは一人でハルシュタットへ行ったかな? それともいつかウニョンと一緒に行くつもりで行かずに帰ったかな?と私も考えていました。


書きながら、私もいろんな妄想してますが(実際に書いているのは氷山の一角でございます)、小さな子どもたちを連れて…というのは考えたことなかったです。でも本当に子どもたちが雪遊びを喜ぶうちにあの素敵な雪景色を見せてあげたいですね。^^ 子どもたちにはウィーンの街より、ハルシュタットの方が似合いそう。(^o^)/
  • 2010-03-26 17:56
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
  • Edit

着々と、復帰コンサートに向けて、

準備が進み始めましたね!
mkmさん、読ませていただきました。
フィリップが前面に出てきて、画面がぱっと明るくなったようにも思います。
スホ・チェハは素敵なんだけど、「ぱっと明るい」タイプではないので、フィリップのように、底抜けの明るさを持った人物が横にいてくれるとバランスが良いですものね。
思い返してみると、やはり春のワルツに、フィリップの笑顔は欠かせなかったとしみじみ、、。

ウイーンに来てから、久々「チェハ」と呼ばれているスホに、わたしも敏感に反応してしまいました!
やっぱり、ピアニスト「チェハ」がしっくりくるな~って、、。
でも、スホに戻ったこともあるし、チェハという名前はスホにとって重い借り物だったわけだから、それをお返しして、身も心も軽くなったんですよね。

わかるんだけど、私はスホが少年のスホであった頃の悲しみが印象的なので、しかもその頃はぜんぜんピアノとは縁がなかったので、ピアニスト「スホ」というのがどうも、、、、、。
チェハさんにお願いして、またそのお名前をお借りしたいかな~ってひそかに思うファンの一人です。
(だからといって、mkmさんのお考えは曲げないでくださいね。勝手にクリス・ユン・ジェハのファンだった一人として書いているんですから)

フィリップに大事な女性ができたのは大きな出来事ですね。
次はイナでしょうか、、、。

それはともかくとして、復帰コンサート、ぜひとも成功させなくては!

少し緊張が伝わってきました。
頑張って欲しいです!「クリス・ユン(・ジェハ)」!う、しつこくて、すいません!


  • 2010-03-27 01:28
  • URL
  • 青空 #SFo5/nok
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青空さん

ありがとうございます!
今日からちょっと留守にしますので、帰りましたらゆっくりお返事いたしますね。^^ 1週間ほどで戻る予定です。その頃には桜は盛りを過ぎているかなあ、と少々心配。^^;
  • 2010-03-27 09:08
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
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ぶらぼ~~~~!!!

mkmさま!!!すごいですね。。。7話、8話と夢中で読みました。
あの青山島の素敵なおうち、今、空いてるなら、ちょうちょ♪が住みたい。。。と、余計なことまで考えましたが。

スホ・オッパの復帰もうれしいけど、フィリップが素敵なパートナーに出会えてたことが、とってもうれしいなぁ。
本編を見てるとき、ときめきはチェハだったけど、涙はフィリップに持っていかれてましたから。
だって、本当に本気で、ウニョンちゃんに恋してたものね・・・

mkmさまのお帰りをお待ちしてま~~~す。
  • 2010-03-28 14:12
  • URL
  • ちょうちょ♪ #On/TYujw
  • Edit

ちょうちょ♪さ~ん!

ありがとうございます。(^o^)/

今日は時折雪が舞う、とんでもないお天気です。土曜日には帰る予定ですので、ゆっくりお返事しますね。(^-^)g"
  • 2010-03-29 16:24
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
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たかが名前、されど名前…。

「彼」のステージネームを決めるにあたって、特別な思いがあったわけではありません。ただあのコンクールで優勝した時から既に彼は「クリス・ユン」でしたから、恐らくヨーロッパではずっと「クリス・ユン」だったと思われます。それがドラマの中で韓国に来てから、最初はグリーンミュージックでの打ち合わせや会話の中でクリス・ユンとユン・ジェハ両方が使われていたのに、ドラマが終盤に近付くにつれてユン・ジェハ一本になりまして…。


ドラマ1話でイナがウニョンに見せた雑誌には確か「世界的ピアニスト ユン・ジェハ」と紹介されていたと思います。統営音楽祭にどっちの名前で出演したのかはわかりませんが、アルバムもドラマ20話のリサイタルでも「ユン・ジェハ」でしたね。
ユン監督に何らかの意図があったのか、ステージネームと本名の使い分けには無頓着だったのか? この点が未だに引っかかってます。


ピアニストのジュリアス・ジョンウォン・キムさんやヴィオリストのリチャード・ヨンジェ・オニールさんが韓国内で演奏活動なさる時にジュリアスやリチャード、オニールなど欧米系の名前は使わないのかな?とも思いましたが、その点はわかりませんでした。


私生活で「イ・スホ」に戻っていたことは確かですし、普通は国によってステージネームを使い分けたりはしないでしょうし(私が知らないだけかもしれませんが…汗)、韓国内で欧米系のステージネームがNGでなければ、元の「クリス・ユン」を名乗るのが一番自然かなと思った、とそれだけのことなんです。


名前に対する思いやこだわりは本当に人それぞれだと思います。チスクさんは彼が再びユン・ジェハを名乗っても「どちらも私が育てた可愛いチェハよ」って平気で言いそうな気がします。ミョンフンさんにとっては、「チェハ」は亡くなった本当のチェハだけだったかもしれませんが、彼が何のわだかまりもなくステージネームに「ユン・ジェハ」を使うなら、それはそれで喜んだかもしれません。彼の演奏活動を通して死んだ息子の名前が多くの人に記憶されることを喜んだかもしれませんが、その反対の可能性もあります。いろんな可能性がある中で一つに決められませんでしたし、あえていろんな人の思いが絡む名前に踏み込む勇気がなかったと言うのが正直なところでしょうか(面倒くさがりなもので…。ドラマのチェハを愛する皆さんのお気持ちはよくよく分かっているのですが…。すみません)。


結婚前にチェハからスホに戻った時の彼は、青空さんが仰るように重荷を下ろしたような気持ちだったと思いますが、今ではスホとして堂々と生きているわけですから再びチェハを名乗るとしてもまた重荷を背負うように感じることはないと思います。あくまで自分がチェハであった16年間、その存在を世間から消されていた少年チェハへの気遣いから、ああ言ったんじゃないかと思います。


それからイナのロマンスは私の管轄外ですから、「復活編」には登場しません。まぷママさん、よろしくお願いいたします。(^o^)/~~~
  • 2010-04-04 15:23
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
  • Edit

復活コンサート、楽しみにしています!

mkmさん、
お帰りなさいませ!
お疲れだったでしょうに、ご丁寧に返信、ありがとうございました!
最後のほうで、ユン監督がだんだん「ユン・ジェハ」を使うようになったなんて、そんなことも気がついていませんでした。

スホに戻ってからの物語なので、「スホ」が多く使われるのが当たり前なのに、ウイーンに戻ってからフィリップやイナに久しぶりに「チェハ!」と呼ばれていて、なぜだかそれがすご~く心地よくて。
別に、「クリス・イ・スホ・」になるわけじゃないんですものね。
うっかり、そんな風に思ってしまったみたいです、わたしったら!

復活コンサート、さぞ、すてきでしょうね~。


  • 2010-04-05 18:11
  • URL
  • 青空 #SFo5/nok
  • Edit

「たかが名前、されど名前…」 2

彼自身がスホと呼ばれてもチェハと呼ばれても気にしていないんですから、青空さんも遠慮なくチェハとお呼びくださいね。(^_-)-☆
馴染んだ呼び方が一番しっくりくるんですから。


たとえが悪いかもしれませんが、学生時代の友人は未だに私のことを旧姓や当時のニックネームで呼びます(どうかしたらこの年で「ちゃん」づけだったりします……冷汗)。そして結婚後に知り合った友人は私のことを当然今の名前で呼びます。名前ってそういうものじゃないか、とも思います。


フィリップやイナが彼のことをチェハと呼ぶのはごく自然なことでしょうし、ウニョンは「スホオッパ」と呼びながらも、初恋のチェハも忘れてはいないはず。


上で書いたのは、彼の名前をどうしようか考えたプロセスなので随分理屈っぽい話になってしまいましたが、私自身、チェハが登場する3人の会話は書いててすごく楽しいです。やっぱりドラマを思い出しますし、情景を思い浮かべやすいですし。^^


「空白の15年」と「ドラマ後の物語」を考えているうちに、私の中には「スホでもチェハでも、彼は彼!」というチスクのような感覚が芽生えてきました。「復活編」の中では彼はスホに戻っていますが、これは頭で考えたもので、感覚的にはスホでもありチェハでもあり、って感じです。
  • 2010-04-05 22:25
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
  • Edit

ついでなので、

通称 "Chris Yoon" としてウィーンで暮らしていた彼が、なぜ韓国内ではユン・ジェハとして知られるようになったのか? 私の推測ですが少しお話ししますね。


恐らく、チェハとフィリップが優勝を争ったコンクールには他にも韓国人が出ていたでしょうし、彼らを追いかけて韓国のマスコミもコンクールを聴きに来ていたと思います。で、参加者の中に Chris Yoon というカナダ人を見つけましたが、見た目は(もしかしたらハーフかもしれないけれど)間違いなくアジアの血を引いている青年の "Yoon" という姓に興味を持って調べてみたところ、本名はユン・ジェハで国籍はカナダだけれど、両親は韓国人で紛れもなく自分の同胞であることがわかります。


その演奏にも惹かれて見守っていたら、何と優勝!! コンクール参加者の中で最年少、しかも韓国人としては初めての優勝、ということで韓国内でも大きく報道されました(この際、国籍なんか気にしない!)。その際、"Chris Yoon" では親しみがわきにくい、ということで、本名のユン・ジェハの方がメインで紹介されてしまい、ヨーロッパでは Chris Yoon、韓国ではユン・ジェハという現象が起こってしまった……のかな?、ピアニスト ユン・ジェハは韓国音楽業界が生みだしたのかな?(だって盛り上げた方が雑誌もCDも、よく売れるでしょう?)、なんて考えています。いずれにしても本当のところはわからないのですけれど。(^^;)
  • 2010-04-05 23:57
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
  • Edit

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そよかぜおばさん

Author:そよかぜおばさん
韓国ドラマ「春のワルツ」で描かれなかった15年間に興味を持ち、何とかこの空白を埋めてみよう!と皆さんからアイデアを頂きながら進めてきました。ドラマ後の物語(ピアニスト クリス・ユンの復活)も同時進行させています。「空白の15年」はまだ6年ほど残っていますが、「復活編」はひとまず完結いたしました。


これとは別に趣味のクラシック音楽の話、印象に残った本やテレビ番組、映画の感想など思いつくまま気の向くままにお話ししたいと思います。

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