SPRING WALTZ     -ドラマの後の物語-

                        (10)

  復帰リサイタル当日の朝、スホは明け方近くに目を覚ました。起きるにはまだ少し早かったが彼はそのままベッドから出るとベランダに立ち、まだ明けやらぬ街を眺めた。彼は朝の冷たい空気を浴びながら自分の新しい出発の日の始まりを見届けようとしていた。間もなく東の空が明るくなり朝日が昇り始めると、彼は大きく息を吸い込んだ。ようやくこの日が来た。この日のためにできることは全てやりきった。あとはステージで思いのたけを込めて演奏するだけだと思いながら、彼は次第に明るくなっていく街を眺めていた。同じ頃フィリップもホテルの窓辺に立ち、この記念すべき日を迎えていた。チェハがピアノをやめてからも彼は別のアーティストのマネージャーとして働いてきたが、それが食べて行くための仕事の域を超えることはなく、彼は再び自分の全てを懸けようと思えるアーティストに出会える日を待ち続けてきたのだった。またチェハのマネージャーとして働ける喜びを噛みしめながら、フィリップは昇ってくる朝日を静かに見つめていた。


 朝食の用意をしていたウニョンはスホがベランダへ出て行くのを見て、緊張のためよく眠れなかったのかと心配したが、日の出を見届けて居間に戻ってきた彼が穏やかな表情で新聞に目を通し、次々に起き出してきた子どもたちとも普段通りに言葉を交わして朝食のテーブルに着き、ウニョンがヘジンの誕生祝いに作ったワカメスープをお代わりまでする様子にそれほど緊張しているわけではなさそうだと安堵した。
 スホは朝食を食べ終わると身仕度を済ませ、子どもたちに手を振って会場のナルアートセンターに出かけて行った。予定していた時刻よりも早めに出かけて行った姿にウニョンはこの日に懸ける彼の意気込みと気持ちの高ぶりを感じ、いつものように「行ってらっしゃい」と送り出しながら、心の中で「オッパ、しっかりね」と声援を送った。それからしばらくするとミョンフンとチスクが到着した。二人はウニョンが本番前のスホにできるだけ付き添ってやれるよう、子どもたちの世話をしに来てくれたのだった。ミョンフンとチスクはヘジンに誕生祝いのプレゼントを渡すと、ウニョンに後のことは構わず早く仕度をして出かけるように促し、ウニョンは手早くみんなの昼食を用意すると先日チスクから贈られた真新しいスーツに袖を通した。一か月ほど前スホのステージ用の衣装を誂える時、チスクは一緒に来てスホの燕尾服だけでなく、ウニョンには春らしいクリーム色のスーツ、ヘヨンにはピンクのワンピース、そして男の子たちには三つ揃いと蝶ネクタイをプレゼントしてくれた。そして恐縮するスホとウニョンに、「私、本当にうれしいんだからこれくらいさせてちょうだい。あなたの晴れの日なんだから家族もちゃんとしないとね。当日はマスコミも来るんでしょう? 誰に見られても恥ずかしくないようにしなくっちゃ。」
と、微笑んだのだった。
 リサイタルは二時からだった。ウニョンはチスクとミョンフンの心遣いに感謝しながら子どもたちを託して家を出ると、会場へと急いだ。
 ウニョンが十二時前に楽屋に着くと、スホはリハーサルを終えてヤンスンがスタッフ全員に差し入れてくれた弁当をフィリップと食べているところだった。
「リハーサルは終わったのね?」
とウニョンが声をかけるとスホは海苔巻きを頬張りながら頷き、フィリップは
「もうばっちりだよ。今まで何度か人前で弾いたって聞いてたからそんなに心配してなかったけど、先週小学校で演奏したのも良かったみたいだね。」
と、笑った。スホは二ヶ月ほど前から教会のチャリティーイベントで演奏したり、知人を招いて町の小ホールで小さなコンサートを開いたりして聴衆の前で演奏する機会を持っていたが、三月に小学生になったヘヨンが「私のアッパはとても上手なピアニストで、来月コンサートをするんです。」と教室で話したことが担任を通して校長の耳に入り、「是非、本校の児童に演奏を聞かせていただきたい」との校長の強い希望を受けて、十日ほど前にはヘジンとヘヨンが通う小学校でリサイタルプログラムの一部とポピュラーなピアノ曲を演奏したのだった。聴衆の大部分が小学生で、大人は先生方と一部の保護者だけ、しかも自分の子どもが通う学校ということで、演奏はうまくいったもののスホ自身は最初それまで経験したどんなリサイタルとも違う緊張感を味わって途惑ったのだが、久しぶりに数百人の聴衆の前で演奏することもできたし、今日は自分の慣れ親しんだ雰囲気の会場なのでほっとしているようだった。
「おまけに音楽の好きな先生やお母さんたちがまだ少し残っていたチケットを買ってくれて、お陰さまで完売。校長先生がクラシック好きで君の名前を知っていたのはラッキーだったけど、君は本当に親孝行な子どもを持ったよな。」
と、フィリップは心底感心していた。
 食事を終えるとフィリップはウニョンに家でのスホの様子を小声で尋ねると安心したように微笑み、仕事があるからと楽屋を出て行った。ウニョンはスホにコーヒーを入れたり、着替えに手を貸しながら家での子どもたちの様子などを話したりしていたが、身仕度を終えたスホが楽譜を手に取ったのを見ると、用があれば電話してくれるよう伝えて彼の邪魔にならないようにと静かに外に出た。どこへ行くともなく開場前のまだ薄暗いロビーの方に向かうと、そこにはお祝いのフラワースタンドがいくつか並んでおり、ちょうど向こうから書類を抱えて小走りにやって来たイナが花に気づいてふと足を止めたのを見てウニョンは声をかけた。
「イナさん、」
 イナは驚いたように振り向いたが、ウニョンに気づくと彼女に歩み寄った。
「ウニョンさん。今日は本当におめでとうございます。ようやくこの日が来たわね。」
 イナの思いのこもった言葉に、ウニョンも
「はい、ありがとうございます。何もかもイナさんのお陰です。治療法を見つけていただいたこと、こうしてリサイタルの準備をしていただいたこと、本当に感謝しています。」
と心からの感謝の気持ちを伝えた。
「お礼なんてよしてちょうだい。チェハはやっとステージに戻って来られたけれど、失われた十年余りの時間は戻らないんだもの。」 
 イナは辛そうに言った。ウニョンはイナを見つめながらしばらく考えていたが、やがて静かにこう言った。
「確かに過ぎ去った時間は戻りませんね。でもね、イナさん。あの人はこの十年余りをただ失っただけじゃないと私には思えるんですよ。イ・スホに戻って周りの人に何も隠す必要がなくなって自由に暮らせたことは、彼にとって幸せなことだったと思うんです。一度は失ったものをまた取り戻せたことに感謝して一日一日を大切に過ごしていましたし、彼の心がどんどん穏やかに伸びやかになっていくのがそばで見ていてよくわかりましたから。
 でもその一方で思うようにピアノが弾けなくて辛い思いをしていました。そんな彼を見ていても祈ることしかできない自分が情けなくて…。あの日、私がコンサートに行かなければ彼はピアノを失わずにすんだんじゃないか、と何度も思いました。だからイナさんが治療法が見つかったと知らせてくださった時、私は本当にうれしかったし、ありがたかったんです。
 たくさんの方に支えていただいて、彼はようやくまたステージに立てるようになりました。これから彼の本当の人生が始まるんだと思います。スホに戻った時と同じように、彼は一度失ったピアノをまた取り戻すことができた感謝と喜びを胸に刻んで演奏活動をしていくと思います。この十年のブランクがこれからの彼を作っていくんじゃないか。そんなふうに思えるんですよ。」
「ウニョンさん…」
 ウニョンの思いがけない言葉に、イナは咄嗟に言うべき言葉が見つけられずにいた。でも
「私には音楽の世界のことは何もわかりません。イナさんとフィリップが頼りなんです。ですからイナさん、これからもよろしくお願いします。」
と頭を下げるウニョンにようやく笑顔で頷いて見せると、
「じゃ、仕事があるからまた後でね。」 
と、ウニョンに背を向けてその場を後にした。
 足早に歩きながら、イナは
「ウニョンさんって、やっぱり不思議な、でもすごい人…」
と呟いた。この十年余りの時間は彼にとっては失われた時間だとしか自分は考えられなかったのに、ウニョンがその時間にも意味を見出していることは、イナにとって驚き以外の何物でもなかった。でもその失われた時間からも生まれるものがあるという言葉と自分に心から感謝してくれたウニョンに、イナは力づけられた気がしていた。


 一時三十分の開場に合わせて、ミョンフンとチスクが子どもたちを連れて到着した。子どもたちがスホに会いたがったので、ウニョンはフィリップの了解を得て子どもたちを楽屋に連れて行き、わずかな時間だったが父親と対面させてやった。そしてロビーに戻るとミョンフンたちに上の二人を預け、ヤンスンの到着を待って一緒に親子鑑賞室へと向かい、そこでヘヒャンを託してようやく自分の席に着いた時には客席はもうほとんど埋まっていた。
「オンマ、いっぱいの人だね。僕、何だかドキドキしてるんだ。」
「大丈夫よ。アッパはきっと立派にやってくれるわ。」
 ヘヨンもチスクの隣で緊張気味に座っていた。ウニョンがヘヨンに微笑みかけたところへ、カングが
「セーフ! 何とか間に合った!」
と駆け込んで、ミョンフンの隣の席に滑り込んだ。
 開演十分前にスホは舞台袖に出て来てフィリップとイナに無言で頷いて見せると、ステージの中央に置かれたピアノをじっと見つめた。フィリップは彼が多少の緊張感を漂わせながらも穏やかで堂々としているのを見て、今日のチェハは大丈夫と確信した。ひと言も話さずにただピアノを見つめる姿に、フィリップはいよいよ始まるリサイタルにかける彼の静かな意気込みを感じ取っていた。そしてまるで自分が演奏するかのように表情を硬くしているイナの肩を叩くと、
「チェハ、久しぶりのステージ、楽しんで。」
と明るく声をかけた。
 開演時刻を過ぎスホがステージに姿を現すと、聴衆は大きな拍手で彼を迎えた。この拍手。かつて青山島で潮騒の彼方に何度も聞いた拍手の中、彼はステージ中央に進むとしばし満場の聴衆を見つめ深々と頭を下げた。彼がピアノの前に座ると客席には一瞬張りつめた空気が流れたが、彼が最初の曲を弾き始めるとホールはたちまち柔らかく温かな音色で満たされた。
 モーツァルト作曲、ピアノソナタ第11番 K.331。優雅でたとえようもなく美しい旋律で始まり、それが六通りに姿を変える第一楽章、「トルコ行進曲」と呼ばれる第三楽章を持つこの曲は、モーツァルトのピアノソナタの中でも最もよく知られた曲の一つであり、練習室で何度も聞くうちにヘジンはこの曲が大好きになっていた。復帰リサイタルが自分の誕生日に決まったと話してくれた時、スホは「たまたまホールが空いてたんだよ」と笑ったが、ヘジンは「お前との約束はきっと守るよ」という父からのメッセージを感じていた。それだけに彼は冒頭からドキドキしながら耳を傾けていたが、いつものように、いやいつも以上に美しく響くピアノの音色にいつしか緊張も解けモーツァルトの世界に引き込まれていった。アッパはすごい、とヘジンは思った。今までにも何度も聞いた曲だけど、今日の演奏が一番だ。こんなにたくさんの人が聞いているのに、アッパは緊張しないんだろうか? ライトは眩しくないんだろうか? こんなステージで立派に弾けるなんてアッパは本当にすごい。
 曲は第二楽章のメヌエットを経て第三楽章のトルコ行進曲に進んだ。軽快に奏でられるロンドがトルコの軍楽隊の小太鼓の響きを模したと言われる伴奏に乗ってフィナーレへと進む頃にはヘジンの胸はうれしさと感動で一杯になっていた。最後まで弾き終えたスホが立ち上がって一礼するとヘジンは周りの聴衆とともに力いっぱいの拍手を送った。


 スホが舞台袖へ引き上げてきて「どう?」と言うように軽く首を傾げて見せると、フィリップは
“GOOD !”
とウィンクして見せた。そして、
「先週までリサイタルやってたみたいだぞ、チェハ。その調子で楽しく弾いてこい。」
と彼の肩を叩いた。
 スホは水をひと口飲むと、再びステージに向かった。そしてピアノの前に腰を下ろしてひと呼吸おくと、二番目のプログラム、シューマン作曲の「子どもの情景」を弾き始めた。スホを舞台袖で見守っていたフィリップは、昨年十二月に彼がウィーンに来た時にリサイタルで「子どもの情景」を弾くと聞かされた時のことを思い出していた。かつてのクリス・ユンはリサイタルではもちろん、練習すらしたことのない曲だった。意表を衝かれて咄嗟に言葉も出ないフィリップに、スホは「驚いた?」と悪戯っぽく笑い、「今の僕の日常を表現してみたくなったんだ。」と言った。そして
「シューマンは『この曲は子どものための曲ではなくて、むしろ年取った人の回想であり、年取った人のためのものだ』って書いているけど、僕にとっては『回想』じゃなくて、『今』なんだ。もちろん、ほんの少しは『回想』だけど。わかるかな?」
と言った。
 演奏を聴きながら、フィリップは
「やっとわかったよ、チェハ」
と心の中で呟いた。「今の君はこの曲のように本当に温かくて幸せだもんな。」
 ウィーンと韓国に離れて暮らした十年余りの間もスホとは二、三年に一度は顔を合わせており、会うたびに彼が穏やかで明るくなっていることをフィリップは感じていたが、フィリップの仕事の都合で韓国に来ても青山島までは足を延ばせないことが多く、たいていはスホがソウルや安東まで出向いていた。今回ソウルのスホの自宅を訪ねて初めてフィリップは三人の子どもの父親になった彼の日常に触れたのだが、彼の家庭の温かさにフィリップ自身が慰められ、子どもたちと共に過ごす楽しさに心癒された。開演前にウニョンが子どもたちを楽屋に連れて来た時には、子どもたちが自分に会いに来ると聞いて、スホは自ら彼らを廊下に出迎えた。そして正装した父親を見るなり駆け寄って燕尾の下に潜り込んで遊び始めたヘヒャンを素早く抱き上げると、可愛らしいピンクのワンピースを着たヘヨンの頭を優しく撫でてやり、少し離れたところに立って緊張した面持ちでじっと自分を見つめているヘジンには力強く頷いて見せていた。かつてリサイタル会場には必ず一人で移動し、自分以外は誰も寄せ付けなかった気難しいピアニストのこの変わりように、フィリップは彼の内面の変化や成長をじかに感じ、この曲を選んだ彼の気持ちを理解することができたのだ。
 チェハが演奏家として新しい世界に足を踏み入れたことをフィリップは感じ取っていた。これから彼はどんな世界を自分たちに聴かせてくれるんだろう。どんな世界に連れて行ってくれるんだろう。彼が最後の「詩人のお話」を弾き終えた時、フィリップの心は未来への大きな期待や希望でいっぱいだった。そしてほっとしたように戻って来た彼を心からの拍手で出迎え、「ブラボー、チェハ」と声をかけた。


 祈るような思いでスホの演奏に耳を傾けていたウニョンは、彼の落ち着いた演奏ぶりと優しく心にしみ入るピアノの音色にホッと胸を撫で下ろしながらも、休憩時間になると親子鑑賞室までヘヒャンの様子を見に行き、ロビーに戻って来たところで出会った小学校の先生たちや保護者一人ひとりに足を運んでくれたお礼を言っているうちに後半再開のベルが鳴った。
 リサイタルの後半、ステージに出てきたスホは前半よりはリラックスしているように見えた。実際、彼にはリサイタルを楽しむ余裕が生まれていた。これまでの客席の反応も良かったし、休憩時間にロビーにいたグリーンミュージックの社員から聴衆が彼の演奏を口々に褒め、後半のショパンを楽しみにしている様子が伝えられたことで彼自身の気持ちもさらに高まったのだった。後半の一曲目、ショパンのワルツ第2番作品34‐1の華やかな序奏を弾き始めてからはピアニスト クリス・ユンの独壇場だった。彼の選んだショパンのワルツ、ノクターン、エチュード、プレリュードなどが次々と奏でられ、聴衆はみな彼の生み出す世界に引き込まれていった。彼はこのひとときを心から楽しんでいた。かつて最も得意としていた大好きなショパンを大勢の聴衆の前で演奏できる幸せと喜びを噛みしめながら、一曲一曲心を込めて弾き続けた。そしてプログラム最後のバラード第1番を弾き終えたスホが立ち上がると、会場は割れんばかりの拍手喝采と「ブラボー」の掛け声に包まれた。
 スホは聴衆に向かってゆっくりとお辞儀をして舞台袖に戻り、目にいっぱい涙をためているイナに微笑みかけフィリップとハイタッチを交わすと聴衆の拍手に答えて何度も舞台に現れたが、何度目かのカーテンコールで一礼すると、そのままピアノの前に立った。そして聴衆が静かになるのを待って話し始めた。
「皆さん、今日は私の久しぶりのリサイタルにお越しいただきましてありがとうございました。またこうしてステージに立つことができ、これほどうれしいことはありません。
 十一年前のこの同じステージでのリサイタルを最後に演奏活動を休止していたのは、私の不注意で右手の指を痛めてしまったためです。当時あちこちの病院を訪ねましたが指を治す方法は見つからず、時間がたつにつれて誰もが諦めかけていました。そんな中で一人の友人が粘り強く治療法を探し続け、とうとう見つけてくれました。私をまたステージに呼び戻してくれた友人に心からの感謝を込めて、この曲を贈ります。」
 ようやくアンコールを迎えてホッとしていたイナは、思いがけないスホの言葉に驚き、舞台袖に立ち尽くしていた。曲は冒頭不安や恐怖・後悔など内面の葛藤を表すような暗い旋律で始まったが、程なく長調へと転調したかと思うと、黒い雲の切れ間から明るい光が差し込むように穏やかで優しい調べに変わり、それに耳を傾けているうちにイナの目から涙が静かに溢れ出した。
「僕のケガは君のせいじゃない。もう自分を責めないで」と、それまでに何度も言ってくれたスホの言葉が、彼の音楽と共にイナの心にすーっと沁み込んできたように感じられて、温かいものがこみ上げてきたのだった。イナはハンカチで口元を覆うと、そっと楽屋へと走り出た。そして後ろ手にドアを閉めるとしばらくの間はらはらと涙を流していたが、やがて「ありがとう」と震える声で呟いた。


 ステージではアンコール演奏が続いていた。リサイタルで取り上げられなかったショパンの小品や彼自身の作品が次々と演奏され、聴衆は惜しみない拍手を送った。ミョンフンは目を潤ませて何度も頷きながら、チスクは既にぐっしょり濡れたハンカチを握りしめながら、手を叩き続けていた。ステージでお辞儀をしたスホとたまたま目が合ったカングは小さくガッツポーズをして見せた。そしてヘヨンは一曲ごとに拍手喝采を受ける父親の姿に目を輝かせながら小さな手を叩き続けていた。
 スホは最後のアンコール曲「クレメンタイン」を弾き始めた。懐かしいそのメロディーにウニョンは彼がこれまでに歩んできた長い道を思った。そして演奏を終えた彼が立ち上がった時、父親を尊敬の眼差しで見つめながら
「オンマ、アッパは約束を守ってくれたね」
と言ったヘジンに何度も頷くと、ウニョンは力いっぱい手を叩きながら万感込めて
「オッパ、おめでとう」
と囁いた。

                                                                     (to be continued)

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コメント

☆復帰リサイタル演奏曲目 その1☆

モーツァルト  ピアノソナタ K,331
http://www.youtube.com/watch?v=P20k4wtOku4(第1楽章)
http://www.youtube.com/watch?v=5XHVGKA-w10&NR=1(第2楽章)
http://www.youtube.com/watch?v=NbrPJyKovLw&NR=1(第3楽章)

ピアノ:ワルター・ギーゼギング
  • 2010-04-23 09:44
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
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☆復帰リサイタル演奏曲目 その2☆

シューマン  子どもの情景
http://www.youtube.com/watch?v=i3FzO72Vt8A(前半)
http://www.youtube.com/watch?v=G038PbBgAUs&feature=related(後半)

ピアノ マルタ・アルゲリッチ
  • 2010-04-23 09:45
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
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☆復帰リサイタル演奏曲目 その3☆

ショパン ワルツ第2番
http://www.youtube.com/watch?v=9tKazGAjfgA
ピアノ:ディヌ・リパッティ

ショパン バラード第1番
http://www.youtube.com/watch?v=RR7eUSFsn28
ピアノ:クリスチャン・ツィメルマン
http://www.youtube.com/watch?v=qCr69AFyHHk&feature=fvw
(少々雑音が入ってますが、こちらはかのルービンシュタインの演奏です)


なお、最後のアンコールの “Clementine” はイ・ジスさん編曲のイメージですが、最後に短調に転調することなく明るい曲調のまま終わります。


ショパンのワルツ第2番とバラード第1番の間に演奏された曲については特定していません。いろいろ思い浮かぶ曲はあるのですが、それをそのまま並べた時にメリハリのあるプログラムになるのかどうか自信がありませんし、本気に選曲をやりだすといつまで経っても終わりそうにありませんので割愛いたしました。
m(_ _)m


このコメント欄、アドレスはあまりたくさん入れられないようで、一度に全部掲載しようとすると突き返されました。よって止むなく3つに分けた次第です。
  • 2010-04-23 09:47
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
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ピアニスト クリス・ユン

復帰リサイタル、おめでとうございます。
そして、mkmさん、どうもありがとうございました。
涙あふれてとまりませんでした。
視聴リンクは、後ほどゆっくり聴かせていただきますね。
  • 2010-04-24 08:02
  • URL
  • ピアノ♪ #0IUSwUQY
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ありがとうございます

出来不出来はともかくとして、一番難しい、また大事なシーンを書きあげて昨日から脱力状態。(「のだめ」感想文、書けません………)
気に入っていただけたなら、とてもうれしく思います!
  • 2010-04-24 13:50
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
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ブラボー♪

一緒に拍手させていただきましたよ、いつまでも…
なんだか涙が止まりません(T0T)
チェハの復活もうれしいですが、
誰もが心の奥にしまっていた
「チェハを心配する気持ち」から
解き放された安堵感でしょうか…
よかったですね…本当に…
mkmさん、本当にお疲れ様でした。
演奏曲も貼り付けていただいたおかげで、
より、コンサート会場に自分がいるように感じました。
ありがとうごじゃいました。
  • 2010-04-24 18:23
  • URL
  • qoo #sSHoJftA
  • Edit

Re: ブラボー♪

qooちゃん、ありがとうございます。


>誰もが心の奥にしまっていた「チェハを心配する気持ち」から解き放たれた安堵感


この言葉に尽きますよね。チェハだけでなく周りの人たちも喜び、もしかしたら周りの人たちの方が幸せになれたのかも?なんて思ったりもします。

復活の春、再生の春。本当にいい季節です。^^
  • 2010-04-24 22:03
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
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戻ってきたクリス・ユン!

mkmさん、ピアニスト・クリス・ユンを復活させてくださって、本当にありがとうございました!
この日を首を長くして待っていました!!
とても嬉しく、幸せです。
このような日がこようとは、ドラマが終った直後、思っても見なかったことで、この復活編を書いてくださったことを心から感謝しています。
しかも、完全復活ですから!
ステージに立った姿を思い浮かべながら読むことができ、嬉しかったです。
曲を聴きながら、何度も読み返し、クリス・ユンの復活をお祝いします!
本当に、ありがとうございました!

  • 2010-04-25 00:32
  • URL
  • 青空 #SFo5/nok
  • Edit

お礼は私にではなく…

まずは、「言い出しっぺ」のChristopherさんへ。
2年前のChristopherさんのあのコメントがなかったら「復活編」はあり得ませんでした。


そして復帰に向けてのリハビリや演奏者としての思い、そしてリサイタルについて裏でいろいろと教えてくださったぴんくさんに。リサイタルでの演奏曲は自分で決めたものの、「演奏順は?(モ―ツァルトとシューマンはどちらが先ですか?)」とか、「モ―ツァルトとシューマンの間にピアニストは一旦袖に引っ込むものですか?」とか、衣装は迷わず燕尾服に決めたものの最近テレビで見るピアノリサイタルでは燕尾服のピアニストをほとんど見かけないために「いまどき燕尾服っておかしいですか?」などなど、お忙しいところ私の質問で随分煩わせてしまいました。この場を借りて改めてお詫びとお礼を申し上げます。


その他、裏であんなことこんなこと、いろいろ教えてくださった方々、相談に乗ってくださった方々に。
本文中に明記しないまでも私自身知っておきたいことが実にたくさんありました。そのひとつひとつに答えてくださった方があって初めて、この復活編を書くことができました。


それからこの「復活編」は書いていてとても幸せな気持ちになれました。こんな機会をみなさんから与えていただいたことにも感謝しています。
  • 2010-04-25 08:48
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
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クリス 夢の扉

mkmさん、 復帰リサイタルの成功、嬉しかったです!
クリス・ユンのピアニストとしての新しいスタートが
ショパン生誕200年、丁度ショパンイヤーの2010年になるなんて
きっとユン監督も考えなかったことですね!

物語(9)の「記者会見」でこれまでの事を「本人の口から」語らせる・・・
こんな素晴らしいアイディアにも 大拍手(♪)!!!
11年前のあの時、誰が何と言おうと自分自身で説明しようと決心していたのに、チョンテの思わぬ言動でそれが叶わなかったチェハ。あの頃の彼は「二人の自分」の間でいつもいつも色々な事の板挟みになり何一つはっきりさせることが出来ず・・・又それを見守るしかなかった私達もドラマ後半は毎回本当に苦しかったことが想い出されますね。

そしてスホ自身の気持ちだけではなく、10年間、この事では晴れる事のなかったイナの気持ち、両親の気持ち、二人三脚で仕事をし共に見ていた人生の夢を失う事になったフィリプの気持ち・・・、「このままじゃ違うでしょう、だめでしょう」と、物語を終わらせる事の出来なかった私達の気持ちについても、又改めて想いを馳せました。

唯一自分の考えを主張し、それを貫いていたのは自分の音楽に関する事だけだったチェハ・・・
名前が誰であろうと、ピアノで奏でる音楽だけは自分そのものだったからこそ、譲れなかったのですよね・・・
幸せになった今も、ウニョンにも話していない15年間の彼だけの想いというものがクリスの心の中にはあるはずです。
「そんな彼から、大切なピアノを取らないで下さい✝」 と切に願って、ここに最後までコメントを寄せ続けた皆の気持ちをmkmさんが救ってくれました。

ピアニストとして、芸術家として生きることは、いくら才能に溢れていてもこれでいいという事の無い、終わりの無い道。活字の陰に隠れているまだ描ききれなかった沢山の想いを、この物語の後もクリスはピアニストとして音楽という普遍的な媒体でずっとずっと生涯かけて表現していくことが出来ますね・・・

一つの想いが言葉となり、言葉は活字となり、活字は新しい物語となって、愛♪と赦し♪と音楽♪の「永遠の春のワルツ」がmkmさんのお陰で正真正銘本物になりました。「チェハ、おめでとう。本当に本当に良かった!」

こんな夢のような事がとうとう、叶ったのですね。

どうしても諦めきれずピアニスト・チェハに拘り続けた私達の願いやそれぞれの祈りを、季節が2度も廻る長い間、ずっとお一人で抱えながら筆を進めて下さったmkmさん、客席からの拍手はすべてmkmさんへのものです! 

本当にありがとうございました。
  • 2010-05-02 16:58
  • URL
  • Christopher #/vz3RzoQ
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うちあけばなし・・・

ここ数回のストーリーは、こんなに家族優先で、こんなに幸せで、今のクリスには自分自身がピアノを弾かなくてはならない絶対的な理由が見当たらないのでは・・・と、私は内心かなり心配でした。今も少し(笑)。
ウニョンや家族に嫉妬もしました(笑2)。せっかくここまできたのに、クラシックアーティストとしては結局ダメになるのでは? 私が大好きだったあのころのチェハとはもうすっかり変わってしまったの?(多分にイナ的・笑3)

でもリサイタルプログラムを順に聴かせて頂き、最後のショパンプログラムを聴きながら胸が一杯になりました。11年前の春も、フィリップ、イナ、ウニョン、チェハ、この4人がそれぞれの青春の夢をかけたチェハのリサイタルでしたが、こうして長い年月を経てクリスの復帰演奏会を迎え、ようやく4人は本当の夢を叶えることが出来たのだと・・・

バラードは目を閉じるとあの4人とmkmさんが5人で次々と奏でる心のハーモニーのように聴こえ、色とりどりのピアノの音色は、「春のワルツ」カラーそのものでした^^

上手く言えませんがそれこそが、環境も経験も様々に違う人の心を一つにすることの出来る音楽の力でしょうか・・・mkmさんが彼をどこまでも幸せにしてあげたかった気持ちが春の太陽のように暖かくって、私には少しくすぐったかったのかもしれません 笑

この物語と共に、復活までの間にmkmさんと色々お話をさせて頂いたこれまでのメールのやり取りは、裏も表も私の宝ものです^^。本当にありがとうございました。
そうでした、まだ to be continued ! でした(^^ゞ
次はいよいよ「ヘジンのデビュー編」へ繋がるのですねっ(^_-)♪ 
えっ?違いました? 笑 
  • 2010-05-02 17:16
  • URL
  • Christopher #/vz3RzoQ
  • Edit

Christopher さん

>こんなに家族優先で、こんなに幸せで、今のクリスには自分自身が
>ピアノを弾かなくてはならない絶対的な理由が見当たらないのでは・・・>と、私は内心かなり心配でした。今も少し(笑)。


ここをつかれると素人としては辛い………(プロの芸術家としてのモチベーションについては逆立ちしてもわかりませんから ^^;)、でもやはりどんな状況であっても、クリスは「ピアノを弾かずにはいられない」ことにしてくださいね。プロとしての演奏活動を始めて5年ほどで彼は演奏家としてキャリアを中断してしまいましたから、やり残したこと、まだまだやりたかったことがあったのでは?「のだめ」ではありませんが、やはりさらなる高みを目指し続けたいと思ったのでは?という仮定のもとに書きました。(思っていただかないことには「復活編」は成り立ちませんので ^^;)


本編のドラマが余りに辛いお話でしたし「空白の15年」も明るいシーンは少ないので、その反動もあって(笑)復活に向けては「あり得ないかな?」と思うくらいハッピーなお話にしちゃってます(自分でもくすぐったかった個所、あります! でもこれが最後ですもの ^^)。


事実、ピアニストとしての復帰が彼のこれまでの人生の中で最良の時の一つだとは思いますが、今まではほとんど家族と離れることのなかった彼が演奏旅行で長期に家を空けることも出てくるでしょうし、留守を任されたウニョンが思わず愚痴ること、思春期を迎えた子どもたちが父親に反発することetc、きっと出てくると思います。そのたびにその一つ一つと真剣に向き合いながらもきっと彼はピアノを弾くことはやめないだろうな。そんな気がしています。


(to be continued) はい、もう一話残っています。見直しに取り掛かったところですので、今しばらくお待ちくださいね。(^o^)/
  • 2010-05-02 22:55
  • URL
  • mkm #0ls4tc0A
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プロフィール

そよかぜおばさん

Author:そよかぜおばさん
韓国ドラマ「春のワルツ」で描かれなかった15年間に興味を持ち、何とかこの空白を埋めてみよう!と皆さんからアイデアを頂きながら進めてきました。ドラマ後の物語(ピアニスト クリス・ユンの復活)も同時進行させています。「空白の15年」はまだ6年ほど残っていますが、「復活編」はひとまず完結いたしました。


これとは別に趣味のクラシック音楽の話、印象に残った本やテレビ番組、映画の感想など思いつくまま気の向くままにお話ししたいと思います。

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